制御工学における主要なキーワードに対して関連した「計測と制御」,「計測自動制御学会論文集」掲載の記事をピックアップします。こちらはキーワード数を増やした詳細ver.となっています。
制御部門広報委員会
ロバスト制御
外乱やモデル化誤差があっても系として安定性を保つ,もしくは一定以上の性能を保つような制御をロバスト制御といいます。制御対象の動特性を完全に記述する数式モデルを作ることは通常不可能なので、有用です。
佐藤:実社会への貢献を続けるロバスト制御(ロバスト制御特集号巻頭言)
モデルを陽に利用した制御構造(内部モデル制御,外乱オブザーバ等)
制御系設計では制御対象の動特性を表現するモデルを用いることが多いです。このモデルそのものを制御器の内部で用いることで制御系を構成する際の見通しが良くなります。むだ時間系の制御に有用であり,また,制御構造として系のロバスト化に寄与することがあります。
滑川,丸山:GIMC構造を用いた磁気浮上システムの高性能ロバスト制御
岡島他:モデル誤差抑制補償に基づく非線形システムのフィードバック線形化
有限時間整定制御
通常の線形制御では出力応答は指数関数的な挙動となり時刻∞で目標値に達するような応答になりますが,有限の指定された時刻で目標値に達し,以後,目標値と一致し続けるような制御を有限整定制御と呼びます。離散時間系の有限整定,連続時間系の有限整定(むだ時間を使用する。),非線形同次システムを用いた有限整定などがあります。また,終端状態制御も有限整定制御の一種と捉えることができます。
サーボ系(最適サーボ,内部モデル原理,繰り返し制御)
零でない目標値に出力を一致させる制御をサーボ系と呼びます。ここでの目標値は時変のものも含みます。単位フィードバック系では,目標値信号のモデルを制御器内において利用することでサーボ系を構成する内部モデル原理が知られています。
現代制御
制御対象の動特性を状態空間表現で表し、その可制御性や可観測性などを議論するとともに、状態フィードバック制御による極配置、オブザーバによる状態推定、さらに、2次形式の目的関数の最小化による制御器設計などを行う方法論を現代制御と呼びます。
佐伯:《PID制御》第7回: 現代制御理論とPID制御のかかわり合い
時間軸状態制御
非線形システムの状態空間表現において,横軸を時間とした系を考えるよりも状態の一つを横軸とした系の方が設計見通しが良い場合があります。例えば,自動車の運転では,曲線走行経路上の何メートル時点にいるかという情報を利用して制御することに相当します。
山川:時間軸状態制御形にもとづいた車輪型倒立振子ロボットの軌道追従制御
非線形制御
大塚:進化しつづける非線形制御理論(特集「実応用こそ非線形制御理論」巻頭言)
中村:最小射影法:仮想空間を用いた制御リヤプノフ関数の設計法
鈴木,平田:PWM型入力サンプル値系における多入力厳密線形化法
久我 中村, 佐藤:最小射影法を使った微分フラットシステムに対する静的状態フィードバック制御系設計
藤本,桜間,杉江:一般化正準変換を用いたハミルトニアンシステムの軌道追従制御
モデル予測制御
モデルを使って一定の時間範囲の未来を予測し、その範囲における最適な入力系列を求めてその一部を適用することを、時刻をずらしながら繰り返す制御手法をモデル予測制御と呼びます。非線形の制御対象や、状態や入力に制約のある制御対象にも適用できるため、広く応用されています。
システム同定,モデリング
制御系設計において、制御対象のモデルの動特性を知ることは重要です。システム同定では、制御対象の構造が既知のものとし、そのパラメータを入出力の応答波形から推定することを指します。制御工学におけるモデリングは、制御構造の決定とシステム同定を含む大枠の概念に相当します。
データ駆動型制御(FRIT,VRFT等)
制御では制御モデルに対して制御器を作ることが一般的ですが、入出力データの情報から制御器パラメータを決める手法も存在します。1回の試行データで解が求まり,かつ評価関数の最適化に基づいたアプローチとしてFRITやVRFTが知られています。
浅野他:むだ時間系に対する全状態オブザーバを併用した状態予測サーボ系における制御器とモデルのFRITベースド同時更新
増田:直接的制御器調整法のオンライン化によるモデル規範型適応制御
量子化制御
制御において、入力や観測値は連続的な全ての値を取るものと仮定することが多いですが、実際は離散値しかとり得ないことがあります。特に、通信を含む系やアクチュエータの取り得る出力値が離散的な場合などでは通信容量制約等の関係で送信できる値のキャラクター数や入力の取り得る値の数に制限があり、その制限下で行う制御を量子化制御と呼びます。
南他:離散値入力型フィードバック制御における最適動的量子化器
周期時変システム
状態方程式のA,B,C行列が時間的に変化するシステムを時変システムと呼びます。この時間的変化に周期性がある場合,周期時変システムと呼び例えば周期軌道を描く宇宙機の制御などで有用な考え方になります。
穂高,軸屋:連続時間線形周期システムの可制御・不可制御部分への分解可能性について
細江,萩原:離散時間非因果的周期時変スケーリングに基づくロバスト安定化制御器設計
ネットワーク化制御
通信ネットワークを介して制御する場合、それによる恩恵が多い反面、ネットワークを介することに起因した不具合がいくつか存在します。よく扱われるものは通信遅延、量子化、データロス等ですが他にも様々な不具合が起こり得ることから,様々な研究がなされています。
残間,橋本,若生,劉:ネットワーク化制御系におけるデータ欠落の推定と制御
藤田他:RSA公開鍵暗号を用いたネットワーク制御系のセキュリティ強化
加嶋,井上:ネットワーク化制御系における確率雑音の白色化効果と非再現性の同時活用
中村他:外れ値を伴う環境下での切替え型オブザーバによる状態推定
小塚,山本:出力の伝送遅延を補償するモデルベース推定に基づく制御系の構成
東:ネットワークシステムの構造的安定性解析:21世紀のロバスト制御に向けて
飽和を有する制御システム(アンチワインドアップ,可到達集合解析)
鈴木,堀:左既約分解に基づいたアンチワインドアップ制御系の一般構造
渡邉他:出力可到達集合解析に基づいたアンチワインドアップコントローラの解析
佐伯他:飽和時の応答を考慮したアンチワインドアップ制御器の設計
鷹羽:Youlaパラメトリゼーションに基づくAnti-Windup制御系の解析と設計
非最小位相系
伝達関数の分母多項式の根を極、分子多項式の根を零点と呼び、非最小位相系は零点が不安定な場合には非最小位相系と呼ばれます。また、入力・出力むだ時間を含むシステムも非最小位相系に分類されます。
カルマンフィルタ
足立:古くて新しいカルマンフィルタ(カルマンフィルタ特集号巻頭言)
確率制御
西村他:1次元Wiener過程による確定アファインシステムの概漸近安定化問題
ハイブリッドシステム制御
井村:ハイブリッドシステム 今世紀の新しいシステム理論を目指して
小林, 平石:区間演算を用いた不確かさを含むハイブリッドシステムのモデリングと制御
メタヒューリスティクス
小熊他:離散構造制約条件付き最適化問題に対するPSOを用いた進化計算
適応制御
学習制御
佐藤他:学習最適制御に基づく軌道学習と身体パラメータ調整による最適歩容生成
マルチエージェントシステム
桜間:マルチエージェントシステムの制御:線形と非線形をつなぐ
石井:マルチエージェント・ネットワークと制御の新動向(<特集>ディジタル制御の理論と応用の新展開)
オブザーバ
佐野他:非局所境界条件に無駄時間を含む1階双曲型システムに対するオブザーバ
サンプル値制御
連続時間で動作する制御対象と、離散時間で動作する制御器を、サンプラとホールドを介して接続してできる系をサンプル値制御系といいます。制御器の動作時刻のみならず、その間の系の挙動も考えて制御器を設計する方法が提案されています。
プロセス制御
ビークルの軌道追従制御
自動運転において,制御と計測が双方重要であり,制御工学では計測は可能なものと仮定された上での経路追従を行うための制御理論が展開されています。
谷口,藤本:時変の経路に対するポート・ハミルトン系の経路追従制御
小田他:モデル予測制御とスライディングモード制御による四輪操舵駆動車両のロバスト経路追従制御
飛翔体の制御(ドローン,航空機)
野波:「空の産業革命」をもたらすドローンの課題と展望(特集「無人航空機の制御・応用研究の現在と未来」巻頭言)
鈴木,野波:拡張カルマンフィルタを用いたGPS/非GPS空間における自律飛行ドローンのナビゲーション
古典制御(PID制御,I-PD制御)
佐伯:《PID制御》第7回: 現代制御理論とPID制御のかかわり合い
安定性解析
2自由度制御
重政, 根岸:PDループのデータ駆動調整結果からの2自由度PID制御系のチューニング
岡田, 杉江:予測誤差法に基づく閉ループ同定と2自由度補償器の結合化設計
線形行列不等式(LMI)を用いた制御
計算機環境の発展や手法の確立により,線形行列不等式条件下での最適化が難しくないという点から,制御系設計問題を線形行列不等式条件下での最適化問題に帰着させて解く手法がLMIを用いた制御です。特にロバスト制御等でこの手法が活躍しています。制御システムの次数が多少高くても計算負荷的に(比較的)問題ない(ことが多い)です。
児島:アファインな非線形基底を用いたパラメータ依存LMIの解法
2乗和多項式
多項式の2乗の和として表せる多項式を2乗和多項式といいます。与えられた多項式が2乗和多項式であるかどうかは線形行列不等式を解くことによって判定でき、このことを使って多項式を含む非線形な問題を解く技術が開発されています。
市原,川田:SOSに基づくアクロボットのゲインスケジューリング制御
GKYP(一般化KYP補題)
ロバスト制御などで用いられるシステム評価に正実性と有界実性があり,この性質を特徴付ける補題としてKYP補題が知られています。一般化KYP補題は,周波数範囲を指定可能なKYP補題です。
イベントベースト制御
小林,高井:IoT時代に向けたイベントベースト制御(特集「IoT時代に向けたイベントベースト制御」巻頭言)
制御システムセキュリティ
澤田:制御システムセキュリティの現代と次世代(特集「制御システムセキュリティの現状と対策に関する課題」巻頭言)
その他
制御工学の今後について考えて行く上で有用と考えられる参考記事をまとめました。
畑中,永原:Society 5.0のためのシステム制御技術(特集「Society 5.0のためのシステム制御技術」巻頭言)
淺間,石井,原:「わ」で拓くシステム制御の新展開(特集「わ:「環」を以て「輪」を為し「和」を創る」巻頭言)